抄録
【目的】光線力学的療法(PDT)は、腫瘍細胞に選択的に集積する光感受性物質を投与後、患部にレーザ光を照射して活性酸素を産生させ、腫瘍細胞を死滅させる治療法である。我々はこれまでに、光感受性物質レザフィリン(NPe6)を用いたPDT(NPe6-PDT)が神経膠芽腫細胞に対して効果的に細胞死を誘導することを明らかにしている。本研究では、有効な治療法が少ない悪性髄膜腫に対する新たな治療法としてのPDTの有効性を確認するために、悪性髄膜腫細胞に対するNPe6-PDTの殺細胞効果を検討した。
【方法】ヒト悪性髄膜腫細胞RCB0680及びラット悪性髄膜腫細胞RCB1753をNPe6で処理した後、664 nm、0-30 J/cm2のレーザ光を照射し、0-24時間後に細胞毒性評価を行った。
【結果と考察】悪性髄膜腫細胞を種々のNPe6濃度並びにレーザ強度でPDT処理しviability を観察したところ、両細胞において、NPe6濃度、レーザ強度に依存した細胞死の誘導が確認されたことから、NPe6-PDT は 悪性髄膜腫細胞に対しても有効であることが示された。また、低濃度NPe6処理では、アポトーシス指標であるcaspase-3の活性化、phosphatidylserine の細胞表面への露出が強く観察され、さらにDNAの断片化も認められた。一方、高濃度NPe6処理では、ネクローシス指標である乳酸脱水素酵素の漏出やpropidium iodideによる染色が強く観察された。これらの結果から、NPe6-PDTは悪性髄膜腫細胞に対して細胞死を誘導するが、その細胞死の様式はNPe6の処理濃度に依存することが示された。悪性髄膜腫は、化学療法剤に対する耐性が高いために手術による物理的な除去以外の有効な治療法が少ない。本研究は、NPe6-PDTが悪性髄膜腫に対する新しい治療法となり得る可能性を示している。