抄録
近年の網羅解析法の発展により、哺乳動物細胞の分化や化学物質の暴露によりDNAのシトシン修飾が変化し、遺伝子の発現に影響を与えていることが明らかになってきている。しかし、これらの動的な変化を即時的に観察するには技術的な障害があり、任意の塩基配列のシトシン修飾状態を観察出来る簡便な手法の開発が求められている。そこで演者は、シトシン修飾を含む任意の塩基配列を解析する新たな実験手法 MoCEV (modified cytosine in episomal vector) 法を開発した。この方法は、(1)発現ベクターと任意塩基配列をin vitroで再構築した後、大腸菌への形質転換を経ることなく直接哺乳動物細胞に導入することでシトシン修飾情報の消失を防ぎ、(2)発現ベクターとしてエピソーマルベクターを利用することにより、任意の配列を導入細胞の染色体に組み込ませることなく娘細胞に分配させる、という点に特徴がある。転写活性を有する配列のCpG部位に酵素的にメチル化修飾を加え、レポーター遺伝子の上流に組み込みMoCEV法による解析を行ってみると、ヒト培養細胞が細胞増殖を繰り返しても、導入された任意塩基配列上のシトシンのメチル化修飾の状態は維持され、下流のレポーター遺伝子の発現が抑制され続けることが観察された。さらに、代表的な脱メチル化剤5-Aza-deoxycytosine (5-Aza-dC) で細胞を処理したところ、5-Aza-dC濃度依存的に下流レポーター遺伝子の発現上昇が観察された。このことは、MoCEV法がメチル化シトシンの動的な変動の観察に利用出来ることを示している。
本発表では、MoCEV法を用いたシトシンのヒドロキシメチル化修飾の解析や、演者が現在注目している微生物の二次代謝物の暴露によるシトシン修飾変動に関する知見も含めて、培養細胞を用いたエピジェネティック毒性の検出について紹介する。