抄録
臨床における薬剤誘発性肝障害(DILI)は、患者のみならず医薬品開発メーカーにとっても大きなインパクトを与え得る副作用である。通常、非臨床試験は遺伝的に均一な実験動物を用い、均一な試験条件下で実施するため、遺伝的にも生活環境の面でも多種多様であるヒトにおけるDILIを正確に予測することは容易ではない。今回,我々は栄養状態を修飾したモデル動物として制限給餌ラット及び病態モデル動物として非肥満2型糖尿病モデルラットを用いてアセトアミノフェン(APAP)による慢性肝障害を評価した。
APAPを不断給餌(ALF)あるいは1日4時間制限給餌(RF)条件下のラットに0,300及び500 mg/kgの用量で約3ヵ月間反復経口投与した。ALF群の肝機能パラメータには,APAP投与による明らかな変動は認められなかったが,RF群では,APAP投与により血漿中ALT及びGLDH活性が上昇した。ALF群の肝GSH含量はAPAP投与による増加が認められ,APAPの投与に対する適応反応として肝GSH合成の亢進が示唆された。一方,RF群の肝臓中GSH含量はAPAP投与による減少が認められ,血漿中・尿中GSH関連メタボロームの変化は,肝GSH含量の減少を示唆するものであった。
次に,APAPをSDラットあるいは2型糖尿病モデル動物であるSDTラットに0,300及び500 mg/kgの用量で約2ヵ月間反復経口投与した。SDラットでは,APAP投与による適応反応として肝臓中GSH含量が増加し,APAP投与による肝機能パラメータの変動は認められなかった。SDTラットでは,APAP投与により血漿中GLDH活性が上昇した。SDTラットでは,APAP投与による減少が認められ,血漿中・尿中GSH関連メタボロームの変化は,制限給餌ラットと同様に肝GSH含量の減少を示唆するものであった。
本発表では,糖新生及びGSH合成に関わる内因性の代謝物の変動による肝毒性の感受性の変化について概説したい。