抄録
薬物性肝障害、特に特異体質性の薬物性肝障害(idiosyncratic drug-induced liver injury, iDILI)に関しては通常実施される非臨床試験項目での検出が困難であり、医薬品開発における深刻な懸念事項の一つである。実験室レベルのiDILI検出法については多くの報告があるが、その発現機序が多岐にわたると考えられるため、実際に医薬品開発の場で定常的に利用可能な評価系として確立されたものは存在しない。一方、肝臓は近年免疫臓器としても注目されており、肝門脈を通じて消化管から流入する外来異物等の処理を行う際に肝クッパー細胞を初めとする免疫系細胞から放出されるサイトカイン・ケモカイン等の曝露を受けていることもiDILI評価系構築には考慮すべき点の一つと考えられた。
そこで我々は、まず正常ラット肝より調製した培養クッパー細胞にLPSおよびiDILI誘発化合物を添加し、TNF-alphaやIL-1beta等の炎症性サイトカインとIL-6やIL-10等の抗炎症性サイトカインとのバランスに与える影響を検討した。その結果、LPS刺激時に放出される抗炎症性サイトカインの放出量をiDILI誘発化合物が抑制すると同時に、一部のiDILI誘発化合物は炎症性サイトカインの放出を増強することで、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスを変動させていることを見出した。更に上記の炎症性及び抗炎症性サイトカインのインバランスを仮説としたin vivoモデルの構築を試みたところ、iDILI誘発化合物とTNF-alphaを併用したマウスにおいて著明な肝機能異常を来し、その際にも肝組織中の抗炎症性サイトカインのmRNA発現が低下していることが明らかとなった。
本発表では、上記評価系を初めとしたiDILI評価系の創薬研究における有用性を紹介するとともに、今後の課題や可能性についても併せて議論したい。