抄録
中国瀋陽市の大気中から採取した<PM2.5、PM10、>PM10の大きさの異なる3粒子と日本に飛来した黄砂を用いて、マクロファージ系培養細胞における炎症性遺伝子発現や蛋白発現、NF-κB活性、酸化的ストレスマーカー(Nrf2, HO-1)等の遺伝子発現をしらべ、粒子状物質の大きさや成分との関連を調べた。また動物実験ではこれらの粒子をマウスの気管内に1回投与して誘導される肺の炎症と粒子状物質の大きさや成分との関連を調べた。更にアレルギー性気道炎症についても卵白アルブミンを用いてこれらの粒子状物質の増悪作用を比較し、粒子の大きさや成分との関連を調べた。なお、これらの実験に際してLPS阻害剤のPolymixin B (PMB)や酸化ストレス阻害剤のN-Acetyl-cysteine (NAC)、NF-κB阻害剤のBAY 11-7085やToll様レセプター2、 4 欠損、MyD88欠損マウスやこれらの骨髄マクロファージ系細胞(BMDM)を用いて比較した。粒子状物質の微生物成分量(LPS, β-glucan)は粒子が大きいほど多く含んでいたが、逆に化石燃料燃焼由来の成分は粒径が小さくなるほど多く含んでいた。黄砂はβ-glucanを多く含んでいた。培養細胞における炎症性遺伝子や蛋白発現は粒子サイズが大きいほど強く誘導され、特にPMBやTLR4と MyD88欠損によってこれらの誘導が大きく抑制されたことから、炎症誘導にLPSの関与を示唆した。一方、炎症性遺伝子誘導やNF-kB活性化とは逆に、粒子サイズが小さいほど酸化的ストレスマーカーの発現が高くなった。これらはNACで抑制されたが炎症性遺伝子誘導は抑制されなかった。動物実験における肺の炎症誘導やアレルギー性炎症も<PM2.5よりもPM10や黄砂の方が強く誘導され、炎症の強さは化学成分量よりは微生物成分量に依存していた。