日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL5
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特別講演
福島原発事故と低線量放射線の健康影響
*神谷 研二
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抄録

 2011年3月11日に福島第一原発事故が起きて4年が経過した。環境中には大量の放射線物質が放出され、未だ住人の避難が続いている。放出された放射性物質からの低線量・低線量率放射線被ばくによる健康影響が危惧されている。原発事故の健康影響を推定する基本は、住民の被ばく線量の評価であるが、その概要が徐々に明らかにされている。第18回福島県「県民健康調査」検討委員会では、住民約44.8万人の事故後4ヶ月間の外部被ばく線量の推計結果が報告された。県全体では93.9%が2mSv未満であり、最大値25mSv、平均値0.8mSvである。福島県が実施した約24万人のWBC検査の結果では、99.9%が1mSv未満で最大値3mSvが2名である。甲状腺の線量については十分な測定データがないが、現在まで報告されている実測値は50mSv以下である。国連科学委員会は、この様に報告された資料を基に、福島原発事故による住民の被ばく線量と健康影響を評価した。それによると、被ばく線量が最も高くなる1歳児(福島県)の事故後1年間の実効線量は2.0-7.5mSv、甲状腺吸収線量は33-52mGyとした。その結果、健康影響では、「チェルノブイリ事故後のように実際に甲状腺がんが大幅に増加する事態が起きる可能性は無視することはできる。白血病,乳がん,固形がんについて増加が観察されるとは予想されない。」とした。
 放射線被ばくの健康影響に関しては、原爆被爆者の長期疫学調査が最も精度の高い情報を提供している。このデータでは、被ばく線量の増加に伴い発がんリスクが直線的に増加することが示されている。国際放射線防護委員会は、この様なデータを基に放射線防護のためにLNTモデルを提唱している。しかし、福島原発事故で必要な低線量域や低線量率の放射線の発がんリスクは、科学的には十分解明されていないのが現状である。例えば、ヒトがんの発生に線量率効果が認められるか否かは明確でない。この様な科学的不確実性が福島原発事故で影響を受けた人々の健康に対する不安を余計に増強している点があり、早急な科学的解明が求められている。

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