抄録
【背景】タンパク質・DNAは、環境汚染物質・薬などの外因性化合物、病態関連の生理的・化学的ストレスにより様々な化学修飾を受ける。これらの修飾をマーカーとして用いる研究は、毒性学分野では『molecular dosimetry研究』とも呼ばれるが、分析ターゲットの設定・方法論構築は容易でない。例えば、修飾DNAは100万個に数個程度の頻度であり、感度・選択性が要求される。一方修飾タンパク質も、既存のタンパク質解析法が『群盲象を評す(抗体=エピトープのみの認識、質量分析=断片化したペプチドの測定)』であり、見落としが多い。しかしタンパク質上の修飾は、酵素的な修飾(リン酸化など)と同様、高次構造・活性変化を惹起するため、molecular dosimeterのみならず病因物質となる可能性もあり、その解析は極めて重要である。そこで私の研究室では、タンパク質上の修飾を網羅的・徹底的に解析する『化学修飾オミクス(2009, J. Mass Spec. Soc. Jp., 57, 167他』を展開し、バイオマーカー探索を行っている。
【講演内容】①環境汚染物質によるDNA付加体の研究(1999, Chem. Res. Toxicol., 12, 247他)、②アルブミンを『生体内イベントの記録媒体=分子カルテ』と考えた酸化・糖化・脂質化修飾の同時解析(2013, Anal. Bioanal. Chem., 405, 7383他)、③アルブミン上の薬物修飾解析による潜在的副作用スクリーニング(2014, Anal. Biochem., 449, 59他)、④表皮角質層タンパク質ケラチンの化学修飾解析による非侵襲的皮膚状態評価法(2011, J. Proteomics, 75, 435他)、⑤生理活性・病因ペプチドの化学修飾と構造・活性変化の研究(2013, Anal. Biochem., 437, 10他)などを紹介予定である。