抄録
医薬品安全性評価とは、当該医薬品についての創薬研究・開発研究から申請・承認・市販後に渡る広範囲な場における安全性の評価とそのリスク評価・管理を展開する事にある。その展開上の原点は、科学的思考に基づくべきであり、その根底には毒性学を中心とした多様性科学領域の知見の利用・応用が不可欠である。近年の分子生物学的思考に続発した新しい科学・技術の進展に伴う医薬・医療の場の著しい変遷は、毒性学の領域にもその視点・方向軸を提示するようになってきた。本報では、「多様性科学としての毒性学は創薬の場で何に貢献できるのか?」という観点から、医薬品における毒性学の基本、創薬の各段階の立ち位置の違いによる安全性評価の相異、レギュラトリーサイエンスと毒性学、リスク評価・管理上の毒性学の科学的思考のあり方について言及する。
医薬品の毒作用発現に関する基本的思考:毒作用は「異物に対する生体反応」として提示されている。その分子標的からみた毒作用は、薬効の延長上および薬効の延長上に帰さない標的で誘起された毒作用発現の範疇で副作用・薬害として捉えられ、基本的には生体の防御反応として表現され、薬として創生した医薬品が原因となり誘起された副作用は、広義の防御反応である。
安全性評価における多様性科学と新しい科学・技術導入:安全性評価を的確に行うためには様々な科学的学問領域からの検証が不可欠で、毒作用発現機序解明とその予測・対応への新たな展開が求められ、分子毒性学的アプローチやシステムズ・トキシコロジーへの方向性は益々重要な位置付けを占めてきている。
創薬における毒性学の方向性:医薬品評価における毒性学は、科学・技術の進展に伴う医薬・医療の変遷に伴うべきであり、科学としての毒性学の基本思考を原点とし、常に挑戦し続ける学問領域である事が望まれる。