抄録
スウェーデンの研究者Jan Lötvallらによってもたらされた細胞小胞顆粒(Exosome: エクソソーム)中のマイクロRNAの発見(Nat Cell Biol, 2007)は、エクソソームを介した細胞間マイクロRNA移送による新たな情報伝達機構の存在を示す衝撃的な内容だった。これを契機に世界中が細胞外に放出され、細胞間相互作用の一端を担う分泌型マイクロRNAやナノサイズのエクソソームに注目することになった。このエクソソームを介したマイクロ RNAによる生命現象のマイクロマネージメントの実態が徐々に明らかになるにつれて、我々はこれまで思っても見なかった細胞の情報伝達の巧みさを知る事になった。エクソソームの起源は、細胞内の老廃物を処理して細胞外に捨て去るゴミ箱だったものが、進化とともにその中に遺伝子の微調整を司るマイクロRNAを内包する事で、細胞間、組織間でのコミュニケーション網を発達させてきた、そう推察することができる。本講演では、こうしたノンコーディングRNAによる生命現象の複雑な調節とその変調が、我々の疾患の起源や薬剤の耐性メカニズムとどう関係するかを概説するとともに、
これらの情報を元にした個別化医療、がん予防を実現するための新たな診断・治療の開発戦略についても言及する。
(参考文献)
1. Kosaka N et al., J Clin Invest, in press (エクソソームの総説)
2. Takahashi RU et al., Nat Commun, 6:7318, 2015
3. Tominaga N et al., Nat Commun, 6:6716, 2015
4. Ono Met al., Sci Signal, 7:ra63, 2014
5. Yoshioka Yet al., Nat Commun, 5:3591, 2014