抄録
胎児期あるいは新生児期にアルコールに曝露すると、特徴的な頭部顔面の形成異常や、発達・学習障害、行動異常などを示す胎児アルコール症候群を発症することが知られている。アルコールは妊娠・授乳中にも摂取しやすく、また他の催奇形物質と異なり毒性の閾値が明確でないこと、個人差が大きいことなどから、その危険性や発症機序を明らかにすることは急務であるが、特に発達・学習障害や行動異常の原因については不明な点が多い。そこで本研究課題では、エタノール曝露モデルマウスとして、妊娠6日から18日(12:00と18:00の2回投与、投与前2時間は絶食)まで25%(w/v)のエタノール0.5、1、2 g/kg体重をICRマウスに強制経口投与し、その胎児・新生児を用いて形態学・行動学的解析を行った。胎児期においては細胞増殖に異常が見られた。これらの異常は新生児期に、神経細胞の分布や投射の異常、大脳皮質の層構造の形成異常に繋がっていることが示唆された。さらに、新生児期と成熟期の神経機能の異常を調べるために行動解析を行ったところ、新生児期(生後1日)の振戦が増加し、成熟期においても活動量の亢進が見られた。近年、胎児期のエタノール曝露は脳内に炎症を引き起こし、それが一因となりミクログリアに影響を及ぼしていることが示唆されている。本モデルマウスにおいても、胎児期、新生児期において異常な増加や活性化が見られた。また、ミクログリアの活性に関連するサイトカイン、栄養因子、細胞外シグナルにも影響が確認された。これらの異常は、大脳皮質の発生において細胞増殖に異常を誘発し、組織構築や神経投射に影響を及ぼし、さらには新生児、成熟期に活動量の亢進といった行動異常の原因となる可能性を示した。