日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-5
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一般演題 口演
化学物質の毒性試験ガイドラインの問題点
*遠山 千春
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抄録

 食品や環境中の化学物質の毒性から生態系を保全し、人の健康を保護するために、国内外で法律が整備され、毒性試験ガイドラインが定められている。日本では、化審法、農薬取締法がこれに当たる。法律の主旨に則れば、感受性が高い胎児・新生児、鋭敏に反応する体質、ならびに抵抗力が低い高齢者や病人を念頭において、化学物質の安全性評価を行うことが求められる。悪影響を未然に防ぐには、見過ごさず、見逃がさないスクリーニングの視点が不可欠である。しかし毒性試験ガイドラインには、毒性学の原理・原則に照らすと、様々な問題がある。
 第一は、毒性ガイドラインが最低限の毒性試験の基準を決めていることに起因する問題である。ガイドラインは、どの毒性試験受託研究施設においても実行可能な、高用量投与条件で観察されるエンドポイントが主体となっている。化学物質の構造や既報により仮説に依拠したものではなく、あらかじめ決められた項目がエンドポイントとして採用されている。発達神経毒性のエンドポイントの記載もあるが、時間・費用の点で現実的に実効性があるものとはなっていない。方法も陳腐化している。
 第二は、毒性試験では複数の動物種用いることとされている。しかし、毒性に対する感受性は、毒性の種類ごとに動物種・系統により異なるのが普通であるため、どの動物種や系統を用いるかによって、NOAELやLOAEL値が大きく異なる可能性がある。
 第三に、毒性データの多くが非公開となっているため、第三者が確認・追試ができない点である。
 化学物質のこれからの安全性審査では、毒性試験ガイドラインに記載の毒性試験に基づく試験結果を用いるだけではなく、通常GLP非該当の毒性試験として学術レベルで行われる最新情報を積極的に収集し、安全性評価に反映することが、化学物質の毒性から健康を未然に守るためには極めて重要である。

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