神経電気生理学的検査は、毒性試験でみられた運動障害の原因部位を特定する上で有用な検査である。我々はイヌにおける同検査をメデトミジン鎮静で実施しているが、体動が結果に影響を及ぼすことを考慮し、検査に最適な麻酔を決めておくことは重要である。本実験では、①三種混合麻酔(メデトミジン、ミダゾラム及びブトルファノール)、②アルファキサロン、③プロポフォール又は④ケタミンを用いた麻酔(②~④はメデトミジン前投与)を用いて神経電気生理学的検査を実施し、各麻酔で得られた結果をメデトミジン鎮静で得られた結果と比較することで麻酔の影響を評価した。
運動神経伝導検査、F波伝導検査、感覚神経伝導検査及びH反射検査では、いずれの麻酔でもメデトミジン鎮静と比較して各パラメータに統計学的に有意な差は認められなかった。短潜時体性感覚誘発電位(SSEP)検査では、プロポフォール麻酔でメデトミジン鎮静と比較して前頭部波形の潜時及び第5胸椎棘突起上-前頭部ピーク間潜時の延長が、三種混合麻酔及びアルファキサロン麻酔でも同部位に延長傾向がみられた。一方、ケタミン麻酔ではいずれのパラメータにおいても明らかな変化はみられなかった。三種混合麻酔に含まれるミダゾラム、アルファキサロン及びプロポフォールはγ-アミノ酪酸サブタイプA(GABAA)受容体作動薬であることから、前頭部波形の潜時及び第5胸椎棘突起上-前頭部ピーク間潜時の延長はGABAA受容体を介した影響であると考えられた。
以上のことから、運動神経伝導検査、F波伝導検査、感覚神経伝導検査及びH反射検査においては今回検討したいずれの麻酔を用いても問題はないと考えられた。一方、SSEP検査で脳幹から大脳皮質体性感覚野に至る体性感覚神経路の評価を実施する場合はケタミン麻酔が適しており、三種混合麻酔、アルファキサロン麻酔及びプロポフォール麻酔の使用は避けるべきと考えられた。