抄録
【背景・目的】マウスを用いた毒性試験では、同一個体からの反復採血による毒性評価パラメータへの影響が懸念されることから、同一個体で反復採血を行うこと及び反復採血で得たサンプルを用いて被験物質投与による血液学的・血液化学的パラメータの変化を経日的に評価することは難しいとされてきた。そこで本研究では、反復マイクロサンプリング実現による毒性評価精度の向上及び動物数削減を目的として、〔実験①〕マイクロサンプリングによる毒性評価パラメータへの影響と、〔実験②〕被験物質に起因した経日的な毒性評価パラメータ変化の検出可否を検討した。【方法】〔実験①〕無処置のCrl:CD1(ICR)マウスの頸静脈より反復採血(30 µL/回、6回/5日間)した群、及び非採血群に分けた。反復採血5日目にイソフルラン麻酔下で後大静脈より採血し、血液学的・血液化学的パラメータを両群で比較した。〔実験②〕同系統マウスにANIT(4日間反復経口投与、50 mg/kg/day)、Cisplatin(4日間反復静脈内投与、5, 10 mg/kg/day)又はPhenylhydrazine(単回静脈内投与、10, 40 mg/kg)をそれぞれ投与し、30 µL/回で4回/5日間、頸静脈から採血した。反復採血した頸静脈血及び連続採血5日目に採血した後大静脈血を用いて血液学的・血液化学的検査を実施した。【結果・考察】〔実験①〕反復採血群では非採血群と比較して軽度RBC/HGB/HCT減少と軽度CK増加が認められたが、毒性評価において許容される範囲内であると考えられた。〔実験②〕ANIT/Cisplatin/Phenylhydrazine投与群では、それぞれ肝・腎障害又は急性溶血性貧血を示唆する毒性評価パラメータの変化を同一個体で経日的に検出できた。以上より、マイクロサンプリングは被験物質投与による変化を同一個体で経日的に捉えられ、また毒性評価上懸念すべき影響のない手法であることが明らかとなった。本法により、毒性評価精度の向上及び毒性試験に供される動物数の削減が期待できる。