日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-260
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ダイオキシンによる胎児期の成長ホルモン低下および発育障害に対する母児 aryl hydrocarbon receptor の寄与
*服部 友紀子武田 知起中村 有沙石井 祐次山田 英之
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抄録
【目的】妊娠母体のダイオキシン曝露により出生児に出現する発育障害は、障害発現に要する用量が小さく、次世代へと影響が継承されることから問題が大きい。 我々は最近、2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) 母体曝露により、胎児脳下垂体において成長ホルモン (GH) 合成が顕著に低下すること、ならびにその機構の一部には、母児のコルチコステロン低下が寄与することを見い出した。本研究では、aryl hydrocarbon receptor (AhR) 欠損ラットを用いて、本機構に対する AhR の寄与を母体および胎児遺伝子型の両面から検討した。【方法】AhR ヘテロ欠損ラットの交配により作製した妊娠ラットに 1 µg/kg TCDD を経口投与し、同腹内に混在する野生型および欠損型の胎児 (胎生 20 日目) より組織を採取した。また、野生型と欠損型の交配により作製した妊娠ラットそれぞれに TCDD を処理し、母体の遺伝子型の影響を解析した。mRNA 発現量は、real-time RT-PCR 法、血清ホルモン濃度は EIA 法を用いて測定した。さらに、成長後の学習記憶能力を Y 字迷路試験により評価した。【結果・考察】まず、胎児自身の AhR の寄与を検討した。その結果、雌雄共に野生型胎児においては TCDD により脳下垂体 GH mRNA 発現および血中 GH 濃度が減少したが、欠損型胎児では影響は全く認められなかった。これと一致して、GH の下流で働くインスリン様成長因子の発現ならびに胎児体重も野生型のみで減少した。さらに、成長後に生じる学習記憶能力低下も AhR 欠損により消失した。続いて、母体側の AhR の影響を検討した。その結果、野生型母体における胎児では、TCDD 依存的に GH mRNA 発現が有意に低下したが、欠損型母体の雄胎児では低下傾向にとどまった。一方、TCDD により発現が抑制される LHβ mRNA 発現については、母体の遺伝子型の影響は認められなかった。以上の成果から、TCDD は主に胎児の AhR 活性化を介して脳下垂体 GH 発現を減少させ、発育を障害することが明らかとなった。また、雄胎児の GH 発現抑制に関しては母体の AhR 活性化も一定の寄与を有することが見い出された。
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© 2016 日本毒性学会
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