抄録
【目的】内分泌かく乱物質(ED物質)は、生体に対して直接的に内分泌機能異常を誘発する。一方、一部の肝毒性物質は、肝臓影響の副次的な作用(ホルモン代謝、排泄亢進)により間接的に内分泌機能を変化させる。内分泌機能維持に重要なホルモンの変動機序には、直接作用と間接作用があり、毒性学的意義を考察する上では変動要因の見極めは重要となる。このたび、肝毒性物質のフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)およびフェノバルビタール(PB)を雄ラットに反復投与したところ、PB投与では肝臓および甲状腺影響に加えて内分泌機能の維持に重要であるテストステロン(Te)の変動(低値)が認められた。そこでPB投与によるTe低値の作用機序を検討した。【方法】DEHP(500 mg/kg/日)およびPB(100 mg/kg/e)を幼若期(雄、投与開始時23日齢)のSDラットに反復経口投与(31日間)し、ホルモンレベル(Te、TSH、T3、T4)、性分化(包皮分離)、生殖器、肝臓、甲状腺への影響を検討した。各器官の病理検査に加え、肝臓ではCYP2B、CYP3A、CYP4AおよびUGT活性、精巣では17β-HSD活性を測定した。【結果および考察】両剤ともに肝細胞肥大に代表される肝臓影響が認められた。また、UGT活性に起因した甲状腺ホルモン排泄亢進による甲状腺影響も認められた。DEHP投与ではCYP4A、PB投与ではCYP2B、CYP3AおよびCYP4A活性の誘導が認められた。DEHP投与ではTeが変動しておらず、CYP4AはTe変動に寄与していないことが示唆された。一方、Te低値が認められたPB投与群の精巣では、17β-HSD活性に変動はなく、Te産生能に対する影響は認められなかった。さらに、Te代謝に関連することが知られているCYP2BおよびCYP3A活性がPB投与のみで誘導されていることから、Te低値の作用機序は肝臓影響による間接作用(代謝亢進)に起因した副次的変化と考えられた。