抄録
【目的】非臨床安全性試験において心毒性を高感度かつ早期に検出できるバイオマーカーの必要性は高いが、カニクイザルの心毒性バイオマーカーに関する報告は少ない。本研究では、イソプロテレノール誘発サル急性心毒性モデルを用いて、血液化学的パラメータ、血中心筋トロポニンI(cTnI)及び血中miRNAを経時的に測定し、心臓病理組織学的変化との関連を検討した。
【方法】雄性カニクイザル(3~7歳齢)にイソプロテレノールの0(対照群:生理食塩液投与)、0.004、0.04及び0.4 mg/kg(n = 3/群)を単回皮下投与し、投与前、投与1、4、7、24、72及び168時間後に採血し、血液化学的検査(AST、ALT、CK、LDH)に加えて、血中cTnI及びmiRNA測定(miR-1及びmiR-499)を実施した。心臓の病理組織学的検査は、対照群を除き投与168時間後に実施した。
【結果及び考察】0.004 mg/kg以上の全例で、左右心室壁又は心室中隔に極軽度から軽度の心筋変性・壊死が認められた。0.004及び0.04 mg/kg群では極軽度の変化が主体であり、0.4 mg/kg群では軽度の変化が主体であった。血液化学的検査では、AST、CK、LDHは対照群を含めて投与4~7時間に高値がみられ、病理変化との関連は低く試験操作の影響が大きいと考えられた。cTnI測定では、病理変化が極軽度の個体では顕著な変化は認められなかったが、心室に軽度な心筋傷害が認められた4/4例で投与1~7時間後に顕著な増加が認められ、重篤度との相関性が示唆された。miRNA測定では、軽度の心筋傷害が認められた2/4例でのみmiR-1及びmiR-499の高値が投与4~7時間後に認められ、他個体では対照群の変動範囲内であった。以上より、本試験条件下では、より高感度に心毒性を検出できるバイオマーカーとしてcTnIが最も有用であることが示唆された。