抄録
ナノマテリアルの暴露による免疫システムへの影響に関しては、カーボンナノチューブの吸引による肺胞マクロファージの活性化などを検討した研究が知られている。しかしながら、これまでに報告されてきた研究は暴露後数週間での解析がほとんどで、ナノマテリアルの暴露後長期間における免疫システムへの詳細な影響に関しては不明のままである。本研究では、正常あるいは免疫異常マウスを用いて、カーボンナノチューブの暴露による免疫系への影響を長期間観察することにより、ナノマテリアルの免疫制御システム全体に対する効果を評価することを目的としている。
Taquann処理された多層化カーボンナノチューブ(MWCNT)を正常C57BL/6マウスの腹腔内に投与後18ヶ月まで解析すると、腹膜炎が持続するとともに、M2型の腹腔マクロファージから種々のサイトカインの産生亢進、TLRを介したシグナルに影響することが明らかとなった。また、全身性自己免疫疾患モデルとして知られているMRL/lprマウスへのMWCNTの腹腔内投与では、B細胞分画の増加及びリウマチ因子(RF)の上昇が確認された。
一方で、吸入曝露装置を用いたB6マウスへのMWCNTの吸入曝露では、暴露後6ヶ月で肺胞マクロファージの生細胞数が減少しており、生存マクロファージはM1型が主であり、その割合は暴露濃度に依存して増加していた。また、曝露12ヶ月後では肺胞内のM1とM2マクロファージの比が大きく変化することが明らかになった。
以上の結果から、カーボンナノチューブの長期曝露によってマクロファージの分化やシグナル伝達に大きく影響するとともに、B細胞あるいは抗体産生機構を含め全身の免疫システムに異常をもたらす可能性が示唆された。