抄録
工業ナノマテリアルのハザード評価のための動物実験の蓄積に比べ、ヒトへの曝露とその影響に関する知見は限られている。本研究では比較的高濃度の酸化チタンに曝露された労働者の呼吸器、循環器、自律神経機能への影響を評価した。酸化チタン取り扱い工場に浮遊する酸化チタン粒子を捕集し、走査電子顕微鏡を用いて調べた結果、粒子経は46から562ナノメートルであった。Cascade Impactorを用いた計測では、作業中の気中粒子の総重量濃度は9.58から30.8mg/ m3であった。胸部X線およびスパイロメーターを用いた検査では10か月から13年間の同工場で作業経験を有する16人の労働者において曝露と相関する異常は認められなかった。4人の労働者にホルター心電図を装着してHeart Rate Variabilityを調べるとともに、Optical Particle CounterおよびCondensation Particle Counterを用いて、粒子数をモニターした。直径300ナノメートル未満の粒子数と、副交感神経機能の指標であるRR50+/-との間に負の相関関係があることが明らかとなった。ホルター心電図は非侵襲的な検査であり、ナノマテリアル吸入曝露によるヒト自律神経系影響を調べる上で有用と考えられる。本研究は少数の労働者を対象としたパイロットスタディであり、より多くの労働者を対象とした更なる研究が必要である。本講演ではヒト研究に加え、心血管系への影響を調べるIn Vitro研究についても紹介する。