抄録
オートファジーは、細胞外由来物質の分解「ヘテロファジー」に対して命名された。細胞質に内在する物質の主要分解経路である。当初、オートファジーには分解対象選択性がないと考えられていたが、分解対象を選ぶ選択的オートファジーが発見されて、大きく注目されている。
細胞内に侵入した細菌の排除は、本来ヘテロファジーの範疇に入るが、エンドソームから細胞質へ抜け出すと、オートファジー分解を受ける。私たちはA群連鎖球菌(GAS, JRS-4株)の排除過程を研究するなかで、タンパク質S-グアニル化と選択的オートファジーの関係に興味をもった1)。
S-グアニル化は、内因性小分子8-ニトロcGMPとシステイン残基の間で進行する修飾反応である2)。GASは、ストレプトリジンO(SLO)を分泌し、エンドソームから細胞質に脱出するが、その後オートファジーに捕捉されて分解される。オートファゴソームに隔離された細菌のS-グアニル化修飾率は、細胞質の細菌に比べて目立って高く、「排除の目印」としてS-グアニル化が使われているという着想を得た。詳しく検討するとS-グアニル化は、引き続くユビキチン化と連動しており、S-グアニル化レベルを抑制する処理は、GASのオートファジー排除を遅延させた。目印としてのS-グアニル化には多彩な応用が期待できる。
傷害を受けたオルガネラの排除にも選択的オートファジーが関与するが、ここでのS-グアニル化の機能は十分にわかっていない。例えば、傷害を受けたミトコンドリアの排除にS-グアニル化が関与しうるかについて現在検討しており、進捗についてお話しする予定である。
1) Ito and Saito et al., Mol. Cell 52, 794 (2013); 2) Sawa et al., Nat. Chem. Biol. 3, 727 (2007).