抄録
再生医療等に用いる細胞(細胞加工物)は従来の医薬品や医療機器とは異なる特性を持つ新しいタイプの製品である。そのため、その品質・安全性・有効性の評価においては、その特性をふまえた、評価方法の妥当性を含めた科学的検証が必要となる。細胞加工物の品質・安全性・有効性に関する現時点での主な科学的課題としては、①ウイルス安全性(自己、同種、異種の由来別の考え方)、②原料等として供される細胞の特性解析と適格性、③細胞基材以外のヒト又は動物起源由来製造関連物質の適格性、④細胞基材としてのセル・バンクの樹立と管理のありかた、⑤最終製品の品質の再現性を達成するための包括的な製造戦略・製造工程評価、⑥最終製品を構成する細胞の有効成分としての特性解析、⑦最終製品の必須品質特性の同定と規格設定(最終製品の品質管理)、⑧製法/セル・バンクの変更による新旧製品の同等性の検証、⑨非臨床安全性試験・非臨床POC試験のデザインと解釈、⑩造腫瘍性試験のデザインと解釈(特にES/iPS細胞由来製品)、⑪最終製品の免疫原性評価、⑫臨床試験のデザインと解釈、⑬有効性・安全性のフォローアップのあり方、が挙げられる。
本講演では、これらの課題のうち、特に生きた細胞を患者に投与するという細胞加工物固有の特性に由来する新しい課題「⑩造腫瘍性試験のデザインと解釈」を例にとり、細胞加工物における造腫瘍性試験の目的、バイオ医薬品製造における造腫瘍性試験との違い、従来医薬品等に適用されてきた関連試験系を適用することの問題点、細胞加工物の品質・安全性評価という目的を達成するために必要とされる造腫瘍性試験の条件、目的を達成するための試験系の開発と結果の科学的解釈、関連ガイドライン作成の状況などについて解説する。