日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: S19-3
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シンポジウム19 カドミウム研究の新たな展開 -疫学から分子機構まで-
カドミウムを吸収しない水稲品種「コシヒカリ環1号」の開発
*石川 覚
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抄録
現在、日本で実施されているコメのカドミウム吸収抑制対策として、1)水田土壌の入れ替えによる客土、2)水稲の穂が出る前後数週間を灌漑水で満たす湛水管理、がある。前者は莫大な費用と時間がかかる技術であり、後者は現在日本全国で4万haの水田で実施されているが、効果の安定性が十分ではない。それゆえ、営農サイドからはカドミウムを吸収しない水稲品種の開発が長年求められてきた。当研究所は「突然変異育種法」を用い、カドミウム吸収に関わる遺伝子に変異を与え、コメにカドミウムがほとんど蓄積しない品種「コシヒカリ環1号」を開発した。本シンポジウムでは、その開発過程や品種の特徴、現在の活用場面および今後の展望についてお話したい。
 「コシヒカリ環1号」はコシヒカリの種子にイオンビームを照射し、約3,000個体の中から見つけた突然変異体である。玄米カドミウム濃度は、通常のコシヒカリでは基準値を超える水田であってもほぼ検出限界以下になる。「コシヒカリ環1号」は、重金属輸送に関わる遺伝子であるOsNramp5に1塩基の欠損を持ち、機能不全型になるため、根のカドミウム吸収が著しく抑制される。「コシヒカリ環1号」の生育、収量、食味、病害耐性など農業上重要な形質はコシヒカリとほぼ同等であるため、従来のコシヒカリに替えて栽培できる。カドミウムを吸収しない遺伝子を簡易に判別できるDNAマーカーを使うことで、他の水稲品種も効率良く低カドミウムのイネに変えることができる。現在まで100以上の品種や将来有望な系統にこの遺伝子を導入しており、新たな低カドミウム品種の育成に国や県の研究機関が取り組んでいる。低カドミウム品種の開発・普及によって、日本人が食品から摂取するカドミウム量を大幅に減らすことが期待できる。
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© 2016 日本毒性学会
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