抄録
カドミウム(Cd)の標的である腎臓近位尿細管は、糸球体近傍のS1領域から、S2、S3領域を経てヘンレループに至るが、それらの部位特異的なCd輸送・毒性発現の機構はほとんどわかっていない。そこで、腎臓の近位尿細管S1、S2、S3のそれぞれの領域に由来するマウス不死化細胞を活用し、Cdの輸送と毒性に関する新たなアプローチを試みた。
S1~S3細胞をカップ培養し、apical側、basal側のそれぞれにおけるCd輸送を調べた。その結果、Cd2+はS3領域のapical側から最も効率よく取り込まれた。一方、Cdの排出効率はどの細胞でもbasal側よりapical側で高かった。組織レベルで検討すると、S3領域においてCd2+輸送に関わるZIP8の発現が高かった。以上の結果から、近位尿細管に取り込まれたCdの一部は原尿側に排出され、S3領域において再度吸収されるという動的なCd輸送機構の存在が示唆された。
Cdの細胞毒性をKim-1、clusterin、L-FABPの遺伝子発現を指標として比較検討したところ、Cd添加によってKim-1の発現が最も鋭敏に上昇することがわかった。しかし、S1~S3の間で顕著な差はなかった。また、FITC-albuminの取り込みを指標として、megalin依存的なタンパク質のendocytosisをS1、S2細胞で調べた。S1、S2細胞をCdに曝露すると、megalinの発現が低下し、FITC-albuminの取り込みも低下した。したがって、Cdは近位尿細管細胞の再吸収能力そのものを抑制している可能性が示唆された。S1~S3細胞を活用することで、近位尿細管の部位特異的な機能に対するCdの影響をin vitroで検出できることが明らかになった。