抄録
化学物質の発がん性・遺伝毒性の評価はリスク評価において必要不可欠である。しかし、発がん性試験では期間・費用等の面から評価できる物質の数に限りがある。一方、in vitro遺伝毒性試験では疑陽性のものも従来法では存在し、臓器特異性の判定が難しい。そこで、我々は in vivo変異原性を検索できる gpt deltaラットを用いたラット中期多臓器発がん性試験を実施し、遺伝毒性と発がん性の包括的な評価モデルの開発を行った。試験デザインは、発がん性評価系は実験開始から4週間にわたってイニシエーション処置として多臓器に標的性を持つ5種類の発がん物質を投与し、一方、in vivo変異原性評価系は同期間中無処置で飼育する。両評価系とも、その1週間後より、各群に被験物質を13週間投与する。検索項目は、発がん性評価系では前がん病変および増殖性病変を指標とした病理組織学的解析を行い、in vivo変異原性評価系では、点突然変異を検出するgpt assay、欠失変異を検出するSpi- assayにより変異原性評価を行う。今回、評価した被験物質は、肝発がん物質であるダンマル樹脂、IQ及びコウジ酸で、発がん性評価系では、いずれも肝発がん促進作用が認められたが、in vivo変異原性評価系で、肝臓におけるin vivo変異原性が、それぞれ陰性、陽性、陰性となり、in vitro変異原性陽性であるコウジ酸が in vivoでは陰性であることが判明した。因みにダンマル樹脂は in vitro変異原性陰性、IQは in vitro変異原性陽性であり、in vitroとin vivo変異原性は共に一致した。さらに、本モデルに改良DNA抽出法を導入することによって、これまで解析困難であった膀胱粘膜および甲状腺のような微小組織における様々な膀胱発がん物質及び甲状腺発がん物質の変異原性の評価に成功し、本モデルの汎用性をさらに高めることができた。以上より、本試験法は、遺伝毒性・発がん性の in vivoスクリーニング検索法として、さらにより短期間で発がん性を予測するモデルとして有用であることが考えられた。