抄録
胚・胎児発生試験における胎児形態観察の使用動物数を抑制する一つの方策として,内臓及び骨格の両検査を全胎児に対して実施することが挙げられる。一般的な手法としては新鮮標本で内臓検査後,骨格染色標本を観察することになるが,げっ歯類における新鮮標本の内臓検査は固定標本を用いた顕微解剖法に比べて心血管系の検査精度が劣る可能性があり,別のアプローチが必要と考えている。近年X線CT装置は自己遮蔽型で設置場所も選ばず,短時間で高画質撮影が可能となっており,CT画像による骨格検査後に固定標本を用いる内臓検査を実施する可能性が浮上してきた。一方,内臓検査においては,ホルマリン固定標本を磁気共鳴断層撮影装置(MRI)にて胎児を丸ごと撮影し,3次元画像解析ソフトにより多断面を観察するといった方法が報告されている。MRI検査では任意の断面で繰り返し観察できることから,顕微解剖法による内臓検査に比べて観察者の経験値に影響されず,複数の観察者による再検査も可能であることから,医薬品開発における胎児毒性の見極めや規制安全性試験における信頼性向上に期待が寄せられる。この場合には,MRIによる内臓検査と骨格染色標本あるいはmicro-CTによる骨格検査との組み合わせが考えられ,各検査法の利点欠点を考慮に入れた上で試験目的に応じた戦略をとることが可能となるであろう。
今回,X線断層撮影像の3次元画像解析によるラット胎児の骨格検査の実用性を確認するため,ラットにバルプロ酸ナトリウムを投与し,妊娠21日の胎児全例をCT撮影した後,同じ胎児を用いて硬骨単染色標本を作製し,CT画像の3次元解析画像による骨格検査と染色標本の実体顕微鏡下での骨格検査を行い,各検査の骨格異常・変異発現率及び骨化数を比較した結果を報告する。また,形態異常を誘発する化合物に曝露されたラット胎児のMRI画像についても紹介する。