日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-3
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一般演題 口演
ダイオキシンによる育児期母体のプロラクチン低下の機構ならびに乳腺への影響
*武田 知起伊豆本 和香服部 友紀子松下 武志石井 祐次
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抄録
 2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) に代表されるダイオキシンの妊娠期曝露は、出生児に低体重や知的障害等の発育障害を惹起する。我々は、ラットを用いた一連の解析により、育児期母体の脳下垂体における prolactin の合成低下に起因する子育て行動の抑制が、上記障害の一端を担うことを見出してきた。Prolactin は、育児行動のみならず、乳腺発達を刺激することで乳汁産生に重要である。そこで本研究では第一に、prolactin 低下の意義をより明確にするため、TCDD が育児期母体の乳腺に及ぼす影響を検討した。ヘマトキシリン-エオシン染色によって乳腺の病理組織学的検討を行った結果、prolactin の発現低下を支持して、TCDD 曝露母体では乳腺小葉の萎縮が観察された。さらにこれと符合して、射乳速度や乳汁量が TCDD 依存的に減少した。これらの結果から、TCDD の妊娠期曝露は育児期において prolactin レベルの低下によって乳腺発達をも障害し、乳汁産生能に悪影響をもたらすことが強く示唆された。
 育児期に起こる prolactin レベルの上昇には、脳下垂体におけるホルモン産生細胞の成熟化が重要と考えられている。そこで、フローサイトメトリーを用いて prolactin 産生細胞への影響を解析した結果、妊娠期の TCDD 曝露は prolactin 産生細胞の減少ならびに縮小化を惹起し、これと関連して脳下垂体重量を減少させることが明らかになった。これらを踏まえ、prolactin 細胞の成熟化を抑制する主要因子の一つであるtransforming growth factor-β1 (TGF-β1) の血中濃度を測定したところ、prolactin 低下と合致する育児期早期に TCDD 依存的な増加が認められた。さらに、TCDD 曝露母の脳室内に TGF-β1 受容体阻害剤である SB525334 を持続的に注入することで、育児期に生じる脳下垂体重量の減少が改善する傾向を示し、出生児の体重増加抑制は正常水準にまで改善した。以上の成果から、TCDD による育児期母体の prolactin 発現低下とこれに基づく出生児の成熟抑制には、TGF-β1 レベルの増加による prolactin 産生細胞の成熟化抑制が寄与するとの新たな機構が見出された。
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© 2017 日本毒性学会
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