抄録
ワクチンは感染症の予防において非常であり、年齢・性別を含め幅広い健常な人に接種することからも高い安全性が求められている。近年、新興・再興感染症の発生や未開発の感染症予防対策で、新規ワクチンの開発がなされているが、免疫効果を高める目的やパンデミック時などの抗原有効をめざし、アジュバント添加製剤の開発も進められている。また経鼻接種やパッチなど、交叉防御能を高めるための接種ルートの改良もなされている。このように多種多様な剤形がありうるワクチンに対し、新しい試験法の開発が望まれてきた。
我々の研究グループでは、既存の毒性試験をバイオマーカー遺伝子等による次世代安全性試験を構築する目的で、多様な開発が進んでいるインフルエンザワクチンに焦点を当て、インフルエンザワクチン接種後の遺伝子発現解析の結果から、18個の安全性評価バイオマーカー遺伝子の同定に成功した (Vaccine, 2008)。これらを用いることで、季節性インフルエンザワクチンのロット間品質の違い、メーカー間の違いを検証する事が可能となり (Plos One, 2014, 2014年技術賞受賞)。更に、剤形の異なる細胞培養由来のワクチンや、ウイルス粒子を疑似したVLP新規製剤の安全性 (Plos One, 2015)に加え、新規開発中のCpG-K3をはじめ、様々なアジュバントの安全性を評価することが可能であることを示してきた(Vaccine, 2017)。これらのバイオマーカーはラットで同定し、試験法バリデーションはマウスを用いてきたが、ヒトにおいても外挿可能かについては不明であった。そこで、まず複数のヒトPBMCロットにおいてインフルエンザ全粒子ワクチン及びHAワクチンを添加し、これらのバイオマーカー遺伝子が検出可能か検討した結果、添加16時間後に、マウスin vivoと同様にバイオマーカー遺伝子の上昇が認められ、安全性評価に資すると考えられた。そこで、超免疫不全マウスにヒトPBMCを移植し、ヒト化マウスを構築し、同様にインフルエンザワクチンを接種したところ、同じようにバイオマーカー遺伝子の発現が誘導され、マウス同様にヒトPBMCを用いることで、ヒトでの安全性予測が可能であることが示された。現在、メカニズムを解析すると共に、新規試験法として妥当性を検討しているので、本学会で報告する。ヒトPBMCを介在させることで、テーラーメードを含めた新しい安全性評価法の開発やワクチン・アジュバントスクリーニング技術への応用に繋がると考えている。