抄録
【目的】ワクチンに用いられるアジュバントは多様性に富み、安全性および品質管理法が複雑化することが想定されることから、優れた試験法の開発が必要である。我々は、これまでに従来のワクチン安全性試験法に替わる新規試験法の開発研究として、インフルエンザワクチンの安全性評価に有用なバイオマーカーを同定してきた(Vaccine, 2008, 26, 2270-2283.)。そこで、本研究ではこれらのインフルエンザワクチンの新規安全性試験法を基に、毒性参照用全粒子ワクチン (RE) を基準とした評価系を作成した。
【方法】各種アジュバント添加HAワクチン,HAワクチン、REまたは生理食塩水をBalb/cマウスに経鼻、腹腔内または筋肉内投与し、その翌日の肺組織のバイオマーカー遺伝子発現、末梢血の性状解析を実施した。
【結果および考察】ヒトで免疫毒性を示すPoly I:Cを添加させたHAワクチンを接種したところ、マーカー遺伝子発現の上昇が認められたものの、MF59やアルミニウム (Alum) においてはいずれのマーカー遺伝子の発現量もPoly I:Cと比較し、低値を示した。また、経鼻投与が最もマーカー遺伝子発現対して高感度であった。HAワクチンおよびREワクチン接種個体から得られたマーカー遺伝子発現量、体重推移および白血球数をそれぞれロジスティック回帰分析に適用し、毒性参照用全粒子ワクチン (RE) を基準とした回帰式を作成した。各アジュバントから得られた遺伝子発現量等を作成したロジスティック回帰式に挿入し、安全性評価シミュレーションを実施した。その結果、ヒトで毒性発現が認められるPoly I:CはREに近いワクチン、MF59やAlumにおいてはHAに近いワクチンであると分類され、REを基軸とした安全性評価が一部のアジュバント評価に応用できる可能性が示された。