抄録
イノツズマブ オゾガマイシン(InO)は,細胞毒性薬物であるカリケアマイシンの誘導体をヒト化IgG4抗CD22抗体と結合させた抗体薬物複合体であり,急性リンパ性白血病治療薬として開発中の薬剤である。 これまでの臨床試験において,被験者の1-5%に静脈閉塞性肝疾患が認められ,これは類洞内皮細胞(LSECs)の障害に起因することが示唆されている。本研究では,LSECsにおけるInOによる細胞毒性に関連したマイクロRNA(miRNA)を同定することを目的とした。ヒトの肝組織,肝細胞およびLSECsからmiRNAを単離して8種のmiRNA(miR-21,miR-122,miR-126,miR-148a,miR-192,miR-194,miR-223およびmiR-885-5p)についてベースラインでの発現を検討した後,InOを処置したLSECs培養液中のmiRNAを測定し,細胞毒性との相関性およびDNA損傷との関連を検討した。また,肝障害を発症したヒトの血清中miRNAの検討も行った。これらの8種のmiRNAはヒト肝組織,肝細胞およびLSECsのいずれにおいても認められたが,肝細胞に対しLSECsではmiR-21およびmiR-126が高値を示した。LSECsで高値を示した2種のmiRNAはInO処置後の24時間で増加を示したが,LSECsに対して肝細胞で高値を示したmiRNAのうちmiR-122,miR-192およびmiR-194はより早期にInO処置4時間の時点で増加した。一方,InOによるDNA損傷は処置後1時間で認められた。これらの5種のmiRNAのうち,miR-21,miR-126,miR-192およびmiR-194についてはATP量の変化と統計的に有意な相関を示した。肝障害を生じたヒトの血清中では,肝細胞で多くみられた3種のmiRNAのうちmiR-122およびmiR-192の増加が認められたが,LSECsで多くみられた2種のmiRNAは有意な増加は認められなかった。以上,InOはLSECsの障害に引き続いたmiRNAの遊離を惹起し,LSECsで高値を示したmiRNAの変化は,全体的な肝毒性よりも肝臓の内皮細胞の障害に対して特異的である可能性が示唆された。