抄録
化学物質の毒性評価では実験動物を用いた毒性試験が行われるのが一般的だが、時間短縮、コスト削減、また3Rの観点からインシリコでの毒性予測手法の開発が求められている。特に反復投与毒性試験で観察される毒性所見は、作用機序が複雑であること、化学物質の構造の多様性などの問題から、いわゆる古典的な定量的構造活性相関(QSAR)によるアプローチでは予測が困難である場合が多い。そこで本研究では、人工知能と呼ばれるディープラーニング、ランダムフォレスト、サポートベクターマシーンなどの機械学習法を用いて化学物質の構造から反復投与毒性を予測するQSAR手法の開発を目指した。演者らは毒性評価において重要な臓器である肝臓に注目し、反復投与毒性試験において無毒性量(NOAEL)の設定に影響を及ぼすことが多い肝細胞肥大を予測するモデルを構築した。内閣府食品安全委員会で公開されている毒性試験情報や有害性評価支援システム統合プラットホーム(HESS)を用いて、農薬等を対象としたラットの28日間以上の反復投与毒性試験から肝細胞肥大に関する毒性所見と試験条件等の情報を収集した。次に該当する化学物質の構造情報を表す記述子を計算し、機械学習法によるモデル構築を行い、予測精度、及びROC曲線の曲線下面積(AUC)を使用してモデル性能の評価を行った。統計解析ソフトRを用いた解析の結果、全てのモデルにおいて約80%の予測精度、AUCは0.8以上の値が得られた。また、適用領域と呼ばれる予測可能な化学物質の範囲を設定し、予測モデルの信頼性を評価した。本研究により、信頼性の高い大規模な毒性情報を用いて、多種多様な化学物質を網羅的に解析することで、機械学習法による反復投与毒性の予測手法の構築が可能であることが示唆された。