抄録
単層カーボンナノチューブ(CNT)の平均長が異なる分散液をF344雄性ラットの気管内に単回投与し、投与後104週までの慢性呼吸器毒性を比較した。平均長8.6 µm(長尺)試料について0.2または1.0 mg/kg、及び平均長0.55 µm(短尺)試料について1.0 mg/kgを投与し、26、52、104週後の呼吸器の反応を病理組織学的検査により評価した。104週観察用には各群50匹を使用した。いずれの剖検時点においても各CNT投与群に共通して肺の黒色、褐色及び灰色斑点がほぼ全例に観察された。短尺投与群にのみリンパ節の黒色化または灰色化が、傍胸腺リンパ節、肺リンパ節及び縦隔リンパ節において散見された。短尺投与群では52週及び104週時点においてほぼ全例に被験物質沈着を伴う炎症性変化、マクロファージの被験物質貪食像及び肺胞の線維化が観察された。これらの頻度は長尺投与群で低かった。長尺投与群ではほぼ全例に被験物質の沈着を伴う終末細気管支の線維化及び終末細気管支上皮の消失が認められた。短尺投与群では、これらの細気管支の変化は示さなかった。気管支/肺胞上皮の腫瘍が104週経過後の媒体投与群、長尺高用量投与群、短尺投与群でそれぞれ2、1、9例に認められたが、いずれも統計学的有意差はなかった。以上の結果から、長尺CNTの大部分は細気管支部で沈着し炎症性変化を起こすのに対し、短尺CNTは相当量が肺胞まで到達し持続的炎症を引き起こすものと考える。投与後26週の肺細胞を用いてin vivoコメット試験を実施したところ、各CNT投与群に% tail DNAの増加は認められず、肺に対する遺伝毒性を示さないことが示唆された。本発表の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「低炭素化社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」の結果から得られたものである。