抄録
OECDでは慢性毒性をその発現経路(Adverse Outcome Pathway; AOP)によって整理することを推奨している。慢性毒性の評価に重要なAOPは種々核内受容体およびストレス応答パスウェイである。ある種の化合物はこれらのAOPを撹乱し、最終的に個体レベルにおける毒性を惹起する。多様な化合物によるAOP撹乱作用に関して大規模な研究を展開しているのが、米国NIH、FDA、EPA間共同研究であるTox21プロジェクトである。Tox21では主要なAOPに対するロボットを用いたウルトラハイスループットスクリーニング系を用い、10,000化合物(Tox21 10Kライブラリー)に対するレポーター遺伝子アッセイを達成するとともに、その測定結果をPubChemに公開している。このTox21-AOPデータベースには現時点で約30種類の核内受容体とストレス応答パスウェイの活性(核内受容体に関してはさらにagonist活性、antagonist活性)が、対応する約10,000化合物の化学構造情報とともに格納されている。
化学構造から生理活性を予測する手法である定量的構造活性相関(QSAR)解析では、構造を多様な数値群(分子記述子)として表現し、活性が既知の物質の情報を用いて構造と活性の間に成立するルールを数式化することにより予測を達成する。上記のTox21-AOPデータベースに掲載された化学構造情報にQSAR解析技術を適用したAOP活性予測は、国際的な活性予測コンペティション(Tox21 Data Challenge 2014)の結果として公開されている。人工知能は10,000化合物を網羅した構造-AOP活性間のルール構築に必須の技術であった。
本講演では、本コンペティションの概略とともに、ディープラーニングに代表される人工知能技術の毒性分野における活用事例について解説したい。