日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-1
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シンポジウム4 ケミカルエコロジーと毒性学
植物二次代謝産物による生体防御:生合成機構の解明とその利用
*野村 泰治
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抄録
 植物が産生する代謝産物は大きくは一次代謝産物と二次代謝産物に分けられる。一次代謝産物は種を越えて普遍的に存在し、なおかつ生命維持に必須な化合物群を指すのに対して、二次代謝産物は種ごとに産生される化合物が異なっており普遍性はない。したがって、植物二次代謝産物は構造の多様性に富み、その総数は20万種類を超えるとも見積もられている。二次代謝産物は生命維持に必須ではなく、位置づけとしては「存在することで環境中での生存を有利にするもの」、すなわち「無いよりは有る方がマシ」な化合物群であり、植物にとっての存在意義が明らかにされているものは多くない。そのうち最も広く受け入れられているものとしては、抗菌・殺虫等の生物活性を有する二次代謝産物による生体防御への寄与が挙げられる。一方で、植物における存在意義はどうであれ、抗腫瘍、抗炎症、鎮痛等の顕著な薬理活性を示すものの医薬への利用をはじめとして、香料、染料、食品などへの利用など、植物二次代謝産物は私たち人間にとっても有用なものである。一方で、ヘロインやマリファナなどの麻薬やタバコなどの嗜好品も二次代謝とは切っても切れない関係にあり、これらは植物二次代謝利用の負の側面であろう。植物にとっての有用性と人間にとっての有用性のいずれに主眼を置くかに関わらず、二次代謝産物の生合成経路を明らかにすることは、基礎科学の観点からだけでなく、耐病性育種や効率的な物質生産法の開発といった応用を図る上でも重要なものであり、植物二次代謝研究における主要な研究命題の一つである。植物二次代謝産物の多様性は多様な生合成酵素によって生み出されているものであるので、生合成研究には‘新奇’酵素の発掘という側面もある。本講演では、演者が研究対象としてきた生物活性二次代謝産物の生合成を取り上げ、生体防御との関連性を中心に紹介し、基礎・応用の両面からその意義について議論したい。
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© 2017 日本毒性学会
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