日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL5
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特別講演
発がんの根源的原因:毒性学にできること
*豊國 伸哉
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抄録
地球の生命体において鉄は必須であり、高等生物の生命は鉄・酸素・食物によって紡がれる。細胞内で電子の流れを作り制御された化学反応を行うのが酸素の主な役割であるが、体内に取り込まれた酸素の数%は活性酸素・フリーラジカルとなり生体分子に切断・修飾・重合などの傷害を与える。この反応は2価鉄触媒によるFenton反応として1894年より認識されていた。当初放射線の生物作用として理解されたが、1968年SOD発見により活性酸素・フリーラジカルの化学反応が細胞内で常時発生していることが認識されるようになった。発がんは1980年代に始まるがん遺伝子・がん抑制遺伝子の概念の確立により、論理的に理解されるようになった。発がん要因分類として、環境因子・習慣・職業曝露・食習慣・感染症・慢性炎症・遺伝的要因などが列挙され、それを防ぐような手立てが取られてきた。しかし日本では1981年以降、がんが死因の第1位であり右上りである。2014年には英国男性で初めてがんが死因の第1位になった。死因としてのがんの独走は今のがん予防法に大きな疑問を投げかける。私はこれまでの研究より、がんの独走を私たちが酸素と鉄を使用する宿命と理解したい。Wild typeのラットにFenton反応を起こすことでヒトのがんのゲノム変化と酷似したがんが発生することはこの仮説を強く支持する。アスベストや多層カーボンナノチューブによる発がんも異物発がんで基本的には過剰鉄を介するものであり、ラットとヒトで極めて類似したゲノム変化が見られることも注目に値する。これまでの観察により、これらの動物発がんは1ヶ月程度までの初期変化と正比例関係にあることは、毒性学にとって極めて重要であると考えたい。鉄の制御こそが今、がん制御に重要であると考えられる。鉄は一旦、血液内に入ると、体外への積極的な排泄経路はない。50才を過ぎると基礎代謝も低下し、女性は閉経を迎え、鉄が余分になる。私が年2回の全血献血を推奨する所以である。
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© 2017 日本毒性学会
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