化審法既存化学物質であるサリチル酸ベンジルの人健康に係るスクリーニング評価に必要な毒性情報を得るため、国の既存点検プログラムにおいてin vitro遺伝毒性試験及び反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験を実施した。
既報のAmes試験(Zeiger et al.1987)が陰性であったため、チャイニーズハムスター培養細胞を用いた染色体異常試験を行ったところ陰性であった。また、反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験では、雌雄のラットに本物質を0、30、100又は300 mg/kg/dayで交配前14日から雄は42日間、雌は授乳4日までの41~46日間強制経口投与した。300 mg/kg/day群の雌雄に軽微な大腿骨骨梁増加及び胸腺萎縮等、雌に胸腺重量の低値傾向が、100 mg/kg/day以上群の雄に胸腺重量の低値傾向、雌雄にT4低値又は低値傾向等がみられ、本試験における反復投与毒性のNOAELは雌雄共に30 mg/kg/dayであった。生殖発生毒性については、性周期、交配成績、黄体数、着床痕数、着床前死亡率、着床率及び生後0日の性比に被験物質投与の影響はみられなかったが、300 mg/kg/day群において、半数例に妊娠期間中全胚吸収、1例に全出産児死亡がみられ、全ての出生児が授乳2日までに死亡した。死産児5例(1腹)に神経管閉鎖障害が認められた。さらに30 mg/kg/day以上の群では生後0又は4日の出生児体重低値が認められた。本試験における生殖発生毒性のNOAELは親動物が雄300 mg/kg/day、雌100 mg/kg/day、児動物がLOAEL 30 mg/kg/dayであった。
以上の毒性情報を総合的に検討した結果、本物質は非遺伝毒性で、スクリーニング評価において重視すべき最も低用量から発現する影響は発生毒性であると考えられ、他のサリチル酸類と同様に催奇形性も示唆された。