【背景・目的】国内の化学工場において膀胱がんの発症が多数報告された事例では、オルト-トルイジン(OT)をはじめとする芳香族アミン類が主に皮膚経路で吸収され、がんを誘発したと疑われている。現場調査から、OTや他のアミン類物質はいずれも極めて低いばく露量であることが判明した。一方、作業者の尿中から比較的高い濃度のOTまたはその代謝物が検出され、作業環境中濃度と大きな乖離を示した。この結果から、吸入ばく露以外の経皮吸収により体内に侵入したことが強く示唆された。OTについては、その経皮吸収を示唆した報告があるが、定量的情報はなく、体内に入った後どの臓器に分布するかは不明である。そこで本研究では、ラットを用いて、OT 経皮投与後のOTの全身への分布・動態等について検討した。
【方法】雄性Crl:CD(SD)ラット(7週齢)を用い、イソフルラン麻酔下で背部を剪毛、毛剃毛し、テープストリッピング法により損傷皮膚とした。その後、[14C]OT経皮投与液を50mg/1.30MBq/4ml/kgの用量で塗布したリント布を用いて、8時間、24時間経皮投与した。投与終了後、リント布を剥離し、イソフルラン吸入麻酔下、炭酸ガスの過剰吸入により安楽死させ、全身オートラジオルミノグラムを作成した。投与後代謝ケージに収容し、採尿区間は投与開始後0~4時間、4~8時間、8~24時間の3時点とした。
【結果・考察】投与後8時間で腎臓、膀胱等に放射活性が高く、それらの臓器に移行していることが観察された。一方、投与後24時間では8時間に比べると各臓器の分布濃度が減少していた。尿中排泄率からも投与後0~8時間の間で投与したOT濃度の76%が排泄されていた。これらの結果から、OTは投与後、速やかに経皮吸収され、腎臓(腎盂)、膀胱等に高濃度で移行すること。また、8時間以内に投与量の大部分が尿中へと排泄されることが明らかとなった。