沙漠研究
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小特集
地球システムモデルによる将来の植生活動予測とその遊牧への影響
立入 郁
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2023 年 33 巻 1 号 p. 43-49

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抄録

過去に自ら開発した家畜体重モデルの将来シナリオへの適用を目的とし,現在取り組んでいることの進捗を報告する.まず,全球気候モデルのうち,生態系などの物質循環を含むモデル(地球システムモデル)の将来シナリオ実験結果を解析し,モンゴル周辺では将来基本的に植生量が増えると予測されていること,その度合いは高温シナリオでより顕著なことを確認した.これは,二酸化炭素の施肥効果,気温上昇,施肥などによる窒素濃度上昇が原因と考えられる.次に家畜体重モデルへの入力データの準備のため,オフライン植生モデルと畳み込みニューラルネットワークとを組み合わせたダウンスケーリング手法の試行結果を示した.前者により0.5°×0.5°の解像度が実現され,さらに後者により8 km×8 kmまで細かくできた.これにより,いくつかの技術的問題が残されているものの,遊牧の解析を行う上で十分な解像度で将来の植生量分布が得られる可能性を示した.最後に,上記手法で作成した2021-2030年のRCP8.5シナリオについてのLAI(葉面積指数)分布を用い,毎月家畜が周囲で最もLAI値が高いグリッドに移動するという仮定を与え,家畜が滞在するグリッドのLAIを計算し,家畜体重が低下する4月を基準に直前の1年間の平均LAIを示した.今後は,ダウンスケール手法および家畜体重モデルの改良をさらに進めたいと考えている.

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© 2023 日本沙漠学会
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