実験動物を用いた化学物質の安全性・毒性評価の代替法として、培養細胞を用いた評価系の開発が進められている。特に、ESCやiPSCといった多能性幹細胞の、増殖・分化能など様々な表現型に対する影響を指標とした評価方法は、胎生期における細胞分化や組織発達に対する化学物質の影響をin vitroで評価できる方法として注目を浴びている。
一方、化学物質による毒性のひとつとしてエピジェネティック毒性が近年注目されている。DNAメチル化やヒストンタンパク質のメチル化・アセチル化などの化学修飾などによって遺伝子発現のON/OFFを調節するエピジェネティックな遺伝子発現調節機構は、遺伝子発現プロファイルが大きく変わる胎生期において非常に重要な役割を担っている。この胎生期におけるエピジェネティクス異常の蓄積が、生殖発生毒性・発達毒性、ひいては様々な疾患の引き金となっている可能性が示唆されるようになり、エピジェネティックな変動を引き起こす物質の迅速検出法の開発が急務となっている。
そこで我々は多能性幹細胞を用いたエピジェネティック毒性物質の迅速検出法の開発を目的に、マウスES細胞、ヒトiPS細胞にMBD-GFP、HP1-mCheryのコンストラクトを導入し、グローバルなエピジェネティック状態を可視化できるモデル細胞を樹立した。そして100種類以上の化学物質のエピジェネティック毒性について、核内に顆粒状に存在するMBD-GFP、HP1-mCheryの蛍光強度・面積・数を指標に定量的に評価した。スクリーニングの結果、顕著な活性が認められた化学物質に関して、次世代シーケンサーを用いて幹細胞制御に関与する遺伝子の網羅的遺伝子発現解析を行った。さらに、化学物質曝露によって発現量に変化が確認された遺伝子領域におけるエピジェネティック状態の変化を、DNAメチル化PCR、ChIP-seq等を用いて調べることで、本試験法の有効性について検証した。