【背景・目的】バングラデシュをはじめ世界各国で、天然由来の無機ヒ素の慢性曝露により、様々な健康被害が報告されている。世界での主要な死亡原因である心疾患の重要なリスク要因に、高血圧症があげられるが、慢性ヒ素曝露と血圧上昇との関連も報告されている。我々は、ヒ素曝露と関連する疾患に関与するDNAメチル化変化部位の同定を目指しており、バングラデシュ住民の血液を用いてDNAメチル化解析を行なっている。これまで、グローバルなDNA低メチル化のマーカーであるレトロトランスポゾンLINE-1のメチル化が、ヒ素曝露と有意に関連することを見出している。LINE-1の低メチル化は様々な疾患と関連するため、本研究では、LINE-1とヒ素汚染地域の住民の血圧との関連を検討した。さらに、LINE-1以外のヒ素曝露による疾患に関する複数のDNAメチル化変化部位の探索を試みた。
【実験】バングラデシュのヒ素汚染地域(175名)と非ヒ素汚染地域(61名)の住民血液からゲノムDNAを調製し、LINE-1メチル化率をパイロシークエンサーにより測定した。得られたメチル化率をヒ素汚染地域と非汚染地域で比較し、さらにヒ素曝露指標(髪、爪、飲料水のヒ素濃度)、住民の血圧との対応関係を調べた。また、ヒ素汚染地域と非汚染地域の男女数名分の血液ゲノムDNAをプールし、MethylationEPIC BeadChipによりゲノムワイドなCpGサイトのメチル化解析を行った。
【結果・考察】多変量回帰分析により、LINE-1の低メチル化はヒ素曝露指標と血圧との相関に関与する可能性が示唆された。ゲノムワイドなメチル化解析により、男女ともにヒ素汚染地域でメチル化率が変化するCpG部位を複数見出した。今後、パイロシークエンサーによりバリデーションを行うとともに、サンプル数を増やし、これらCpG部位のメチル化率を測定する予定である。