【背景及び目的】ジアセトキシスシルペノール (DAS) はかび毒であり、麦などの農産物への汚染を介して健康被害が懸念される。本研究では、DASの発達神経毒性のリスク評価を目的として、マウスを用いた発達期曝露実験を行い、生後に始まる海馬歯状回 (DG) の神経新生への影響を検討した。
【方法】各群13匹の妊娠ICRマウスに、妊娠6日目から分娩後21日目までDAS(純度:98%)を0、0.6、2.0、6.0 ppmの濃度で混餌投与し、児動物を生後21日目(離乳時)と生後77日目(成熟時)に解剖し、DGの顆粒細胞層下帯 (SGZ) における神経新生の各分化段階にある細胞数の変動及び歯状回門でのGABA性介在ニューロンの分布を免疫染色により検討し、関連する遺伝子発現変動も検討した。
【結果】免疫染色では、離乳時の2.0、6.0 ppmで、SGZでのGFAP+(type-1神経幹細胞)、SOX2+(type-1神経幹細胞~type-2b神経前駆細胞)、TBR2+(type-2b~type-3神経前駆細胞)、DCX+(type-3神経前駆細胞~未熟顆粒細胞)細胞数の減少、6.0 ppmでTUNEL+細胞数の増加、歯状回門でのPVALB+(GABA性介在ニューロン)細胞数の減少が認められ、成熟時にはこれらの変動は消失し、2.0、6.0 ppmでRELN+細胞数の増加を認めた。離乳時における6.0 ppmでの遺伝子発現解析の結果、AMPA型グルタミン酸受容体 (Gria3)、NMDA型グルタミン酸受容体 (Grin2a) 及びアセチルコリン受容体 (Chrna7) の発現減少を認めた。
【考察】DASのマウス発達期曝露により、離乳時のDGにおけるアポトーシスを機序とする神経幹細胞から神経前駆細胞までを標的とした神経新生障害を認めた。成熟時にはこれらの顆粒細胞系譜の変化は回復したものの、これらの細胞の移動障害を示唆するRELN+介在ニューロンの増加が認められ、DASによる神経新生障害が不可逆的である可能性が示唆された。以上、児動物の神経新生障害に基づいたDASの無毒性量は0.6 ppm(0.09–0.29 mg/kg体重/日)と判断された。