【目的】薬剤性肝障害(Drug-Induced Liver Injury: DILI)は、医薬品の開発及び販売中止の主要な要因の一つである。DILI誘発性を有する薬物(DILI薬物)は、一日投与量や脂溶性が高く、胆汁酸トランスポーター阻害活性やシトクロムP450(P450)反応性を有することが報告されている。しかしながら、これらの特徴について、DILI誘発性のない薬物(no-DILI薬物)との明確な違いは明らかにされていない。そこで本研究では、薬物のP450反応性に着目し、DILI薬物及びno-DILI薬物間のP450反応性の差異の解明を試みた。
【方法】95種のDILI薬物及び75種のno-DILI薬物を文献情報より選択した。ヒト肝ミクロソーム又は組換えヒトP450を酵素源として、P450-Glo Assay System(Promega)を用いて9分子種のヒトP450に対する被験物質の阻害活性を評価した。統計学的解析にはJMP Pro 12を使用した。
【結果・考察】170薬物のヒトP450に対する阻害活性評価の結果、DILI薬物のCYP1A1、CYP1B1、CYP2B6、CYP2C8及びCYP2C9に対する反応性は、no-DILI薬物に比べて有意に高かった。次に、このP450反応性データを利用し、DILI薬物とno-DILI薬物の決定木による判別分析を行った。その結果、CYP1A1及びCYP1B1反応性がDILI薬物の判別に有用であることが示唆された。一方、9分子種全て、又はCYP2D6以外の8分子種に対して反応性を示さない薬物は、no-DILI薬物に判別される傾向が認められた。
【結語】以上本研究では、DILI薬物及びno-DILI薬物の体系的なP450阻害活性評価の結果、DILI薬物が特定のP450分子種に高い反応性を示すこと、これらのP450反応性情報はDILI薬物とno-DILI薬物の判別に有用であることが示された。