【背景・目的】様々な側鎖を持つフタル酸エステル類は、プラスチックの可塑剤として広く使用されている一方で、肝がんの誘発や生殖機能への影響が知られている。そこで、本研究では、フタル酸エステル類における肝臓と生殖系への影響に着目し、文献を用いて毒性試験情報を収集、整理し、剤ごとの毒性学的特徴を比較することを目的とした。
【方法】フタル酸エステル類6剤(フタル酸ベンジルブチル:BBP、フタル酸ジブチル:DBP、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル):DEHP、フタル酸ジイソデシル:DIDP、フタル酸ジイソノニル:DINP、フタル酸ジオクチル:DNOP)について、生殖発生毒性試験および反復投与毒性試験の毒性試験情報(動物種、系統、雌雄、NOAEL/LOAEL設定の根拠となった所見など)を文献から収集した。次に、肝臓および生殖系の毒性所見がみられた試験より、最も低いNOAEL/LOAELを抽出し、剤ごとに比較した。
【結果】生殖発生毒性試験において、ラットの生殖系での毒性所見を指標としたとき、DBPとDEHPが最も低いNOAEL/LOAELを示したが、ラットの肝臓での毒性所見を指標としたとき、NOAEL/LOAELは、剤ごとによる大きな違いを示さなかった。また、反復投与毒性試験のラットの結果においても、肝臓における毒性を指標としたとき、NOAEL/LOAELは剤ごとに大きな差を示さなかった。
【考察】フタル酸エステル類による生殖系への影響は、側鎖の長さに関連し、長鎖型よりも短鎖型のほうが、毒性が強いことが報告されている。今回の結果においても、短鎖型であるDBPとDEHPの生殖系の毒性影響が他の剤に比べて、低用量でみられた。一方、肝臓への影響に関しては、側鎖に関連した傾向はみられなかった。以上より、フタル酸エステル類の側鎖と毒性影響の関連性において、肝臓と生殖系では異なる傾向であることが示唆された。