システインパースルフィド(Cys-SSH)は、システインのチオール側鎖(Cys-SH)に、さらに過剰なイオウ原子(S)が付加したアミノ酸誘導体である。システインパースルフィドは、グルタチオンパースルフィド(GSSH)やタンパク質パースルフィド(Prot-SSH)など多彩な分子形態で細胞内に存在する。パースルフィドは元のチオールにわずかに1つのイオウ原子が付加しただけにも関わらず、その還元力や求核性が著しく高まっており、活性酸素のみならず内因性・外因性の親電子物質を強力に分解するいわゆる「活性イオウ」として重要な役割を担っている。細胞内シグナル伝達機構の制御において、タンパク質システイン残基の酸化状態に依存した調節機構が報告されている。我々は培養マクロファージモデルを用いて、グラム陰性菌リポ多糖(LPS)刺激を介した自然免疫応答における活性イオウの役割を解析している。マウスマクロファージ細胞株を活性イオウドナーで処理すると、LPS刺激の下流シグナルで、特にMyD88-NF-κBとTRIF-IRF3経路が著しく抑制されることが分かった。その結果、炎症性サイトカインであるTNFαならびにIFNβの産生や、さらには誘導型一酸化窒素合成酵素の発現が顕著に抑制された。マウス腹腔内に致死量のLPSを投与するエンドトキシンショックモデルに対し、活性イオウドナーを投与するとマウスの生存率が著しく改善した。このことから活性イオウによる自然免疫応答の活性化の抑制はin vivoにおいても起こりうることが示された。以上のことから、活性イオウ分子種は、自然炎症応答の制御に密接に関わっている可能性が示唆された。