タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)は小胞体内腔に存在し,新生タンパク質成熟,とくにジスルフィド結合の形成や異性化に深く関与する酵素である.PDIは分子内に2カ所の触媒ドメインCXXCモチーフを有している.この活性中心Cys残基は非常に反応性に富むことが知られている.
私たちはこれまでに,一酸化窒素,活性酸素種,メチル水銀などの親電子性化合物がこのCys残基に結合し,酵素活性を消失させることを見出してきた.これにより,小胞体内では新生タンパク質成熟機構が阻害されることで未成熟変性タンパク質が蓄積し,小胞体ストレスが惹起されることがわかった.
一方,PDI活性中心システイン残基は,定常状態あるいは外来性ポリ硫黄ドナーによってスルフヒドリル化/ポリ硫黄化されている可能性を見いだした.しかしながら,タンパク質ポリ硫黄化の生理的意義については十分にわかっていない.そこで,精製したリコンビナントPDIを用いて,ポリ硫黄化によるPDI酵素活性への影響について検討した.還元型/不活性型PDIを各種ポリ硫黄ドナーで処理したところ,PDI酵素活性の回復が認められた.この際, PDIシステイン残基のジスルフィド結合形成の有無を検討したところ,PDIはポリ硫黄化された後,ジスルフィド結合形成が促進される可能性が推定された.したがって,本修飾は硫黄分子の反応性(酵素活性)を高めることが大いに予想されたことから,小胞体におけるPDI本来の機能に深く関与している可能性が示唆された.次に,小胞体ストレス誘導薬あるいはパーキンソン病様症状を惹起するMPP+によるポリ硫黄ドナーの効果について検討した.その結果,両薬物による細胞死はポリ硫黄ドナーの濃度依存的に抑制されることがわかった.現在,その詳細なメカニズムについて解析しており,本シンポジウムにおいて議論する予定である.