日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL5-2
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特別講演
急性中毒の標準治療はどうあるべきか
*杉田 学
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抄録

 中毒とは,生体の外部より化学物質が侵入して有害な生体作用を生じることの全般を指し,多くの場合過量服用によって引き起こされるが,患者の状態によっては標準的な投与量で起こることもある.全ての医療従事者は,自分の投与した薬物によって有害な事象が引き起こされることを認識し,その標準的治療を知っておく必要がある.急性中毒の治療は,①一般的な全身管理,②中毒原因物質の特定,③体内への吸収を阻害する,④既に吸収された物質を解毒・拮抗あるいは排泄促進する,の4段階で行われる.世界的にみると,AACT(the American Academy of Clinical Toxicology)とEAPCCT(the European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists)が1997年に中毒治療の標準化を図る目的にPosition paperを発表し,世界60カ国で承認された.我が国では日本中毒学会が「急性中毒の標準治療」を2003年に発表している.これらの資料は容易に入手でき治療方針を立てるのに有用であるが,広く一般の臨床現場に浸透しているかは疑問である.また他の疾患や症候群に比べ,エビデンスが乏しいため定期的なアップデートも行われることが少ない.しかし一方で,個々の薬物は物質特有の体内動態をとる事が明らかであり,理論的に正しい治療を行う事が求められる.消化管で吸収され体循環に入った薬物は,体内のどのコンパートメントに分布するかによって血中濃度が決定される.このコンパートメントの大きさは一般に分布容量(Vd)と呼ばれ,脂溶性が高く,組織結合性が高いほどVdは高くなり,除去が困難になる. 薬物は血漿蛋白と可逆的に結合し,この割合を蛋白結合率(PB)で表す.PBの高い薬物は代謝,排泄を受けにくい.多くの医薬品はVdやPBが大きく,強制利尿や血液浄化法の適応とはならないが,致死的であり血中濃度が高い場合には効率が悪くてもこれらの治療が適応になる場合もあり得る.本講演では正しい急性中毒治療のあり方を考え,今後のガイドライン改訂の展望について解説する.

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