日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: W5-1
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ワークショップ5
システム薬理学に基づいたTKIsの心毒性予測
*鈴木 洋史苅谷 嘉顕本間 雅
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抄録

 分子標的薬は優れた効果を有するが、予期せぬ重篤な副作用により薬物療法が制限される場合も多い。特に心毒性予測は、治療上、また医薬品開発上も重要な研究課題となる。演者らは、チロシンキナーゼ(TK)阻害剤(TKI)の心毒性発症機構について解析を進めている。

 進行性腎臓がん治療薬のスニチニブは、心毒性、肝毒性、血小板減少などの副作用を有する。演者らは、臨床投与後、比較的毒性の低いソラフェニブとの比較検討を行った。体内の300種以上のTKと両薬剤の間の解離定数(Kd)、および両薬剤の臨床血液中非結合型濃度を用い、TKの阻害率を算出した。その結果、スニチニブがphosphorylase kinase (PHKG)を強く阻害することが示され、PHKGが毒性発現のオフ・ターゲットとなる可能性が示唆された。パスウェイ・マップの解析により、PHKG阻害は細胞内代謝系の変動をもたらし、細胞内還元型グルタチオン(GSH)濃度が低下することが示され、マウスにても、スニチニブによりヒトと同様な毒性発現、および組織中GSH濃度の低下が観察された。さらにvitamin E投与により組織中GSH濃度は正常値まで回復し、毒性が軽減されること、また、がん移植マウスを用いた検討により、スニチニブの薬効には影響を与えないことが示された。現在、臨床応用に向けた検討を進めている。

 さらに、TK間の連関、およびアポトーシス経路を連結させて記述したマップを作成し、in silico情報に基づきTKI投与後の心毒性発現を予測したところ、予測値と実際の報告値の間には相関が存在した。更なる数理解析手法の発展が必要とされるが、システム薬理学に基づく心毒性発症予測法の確立に向けた一つのアプローチとなるものと期待される。

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