ワクチンは健常人に接種することため,高い品質・安全性の確保が求められている。その為,通常の医薬品とは異なり,製造所に加え規制当局においてロットリリースとして有効性を確認する力価試験や安全性,品質の均一性を確認する一般毒性試験試験等が設定されている。近年,ワクチンや免疫増強剤であるアジュバントに関しても3Rの観点から,in vitro代替試験法の開発が望まれているが,ワクチンの生物活性を評価するためには動物を用いる必要があり,代替試験法の開発は困難であった。
そこで我々は,動物実験で用いる生体指標をバイオマーカー(BMs)に置き換え,さらにそのBMsをin vitro試験で測定できる系が構築できればin vitro代替試験法の開発は可能ではないかと考え,インフルエンザワクチンをモデルとして,全粒子ワクチン (WPv) をラットに投与し,網羅的遺伝子発現解析を実施し,肺においてワクチン接種後に特異的に上昇する18種類のBMsを同定した。免疫反応と関わるもの,体重の変化や白血球数の変化を含めた安全性と関わるものを特定し,BMsセットの多元的解析により,安全性を評価できることを明らかにした。次に,細胞株のスクリーニングを実施し,WPvに反応してBMsセットを発現する細胞株の同定に成功した。この細胞株は,WPv濃度依存的にBMsを上昇させ,種々のサイトカインも分泌し,in vivoの肺で起こっている現象を一部再現していることが示唆された。更に,アジュバント(Alum)を添加したインフルエンザHAワクチンにおいても,Alum濃度依存的にBMsの上昇が確認され,アジュバント評価も可能であることが示唆された。
以上の結果より,我々は新規にインフルエンザワクチンおよびアジュバントの安全性をin vitroで評価可能な細胞株の同定に成功し,安全性試験・品質管理試験として代替可能であることが確認できた (特許出願中)。現在,新規試験法としてバリデーションを実施中である。