【目的】硫酸化は生体内に取り込まれた医薬品や毒性物質、あるいは内因性物質の活性化や不活性化に関与する重要な反応である。生体内におけるこの反応は、3′-phosphadensoine-5-phosphosulfate (PAPS)を補酵素とする硫酸転移酵素(SULT)によって行われる。現在ヒトにおけるSULT分子種は、少なくとも15種存在し4つのクラスに分類されている。SULTの補酵素であるPAPSは、ATPスルフリラーゼ活性とAPSキナーゼ活性を併せ持つPAPS合成酵素(PAPSS1及び2)により無機硫酸とATPより2段階の反応を経て生合成されることが知られている。現在まで硫酸抱合反応に関する研究の多くは、酵素源としてSULT分子種及び補酵素として放射性標識したPAPSを用いた分析系を用いて行われるのが一般的であった。本研究では、SULT分子種とPAPSS1分子種を発現させた酵素系と無機硫酸及びATPを用い、安価で簡素化された硫酸抱合反応に関する分析系の開発を行うことを目的とした。
【方法】4-ニトロフェノール(4NP)を良好な基質とするSULT分子種であるSULT1A1及びPAPSS1のHisタグ融合タンパク質を昆虫細胞発現系を用いてそれぞれ発現させた。得られた感染細胞より可溶性画分を調製し酵素反応に用いた。酵素反応は4NPの硫酸抱合体生成量を指標として評価した。
【結果・考察】無機硫酸、ATP及びPAPSS1存在下、PAPS生成量をHPLCで分析したところ、経時的な生成量の増加が認められ、PAPSS1のHisタグ融合タンパク質が酵素機能を有していることが明らかとなった。次いで無機硫酸、ATP及びPAPSS1とSUL1A1存在下、4NPの硫酸抱合体生成量を測定した。その結果、時間依存的な4NP硫酸抱合体量の増加が認められた。以上のことから、SULTの補酵素PAPSを用いる代わりにPAPSS1を用いて硫酸抱合反応に関する分析が行えることが明らかとなった。今後、複数のSULT分子種による検討やPAPSS1及び2分子種を用いた場合の同異点についての検討などが必要と考えられた。