日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

世界遺産の「価値」について
風景を再発見する視点から
*二通 里江子
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キーワード: 世界遺産, 価値, 評価, 風景
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p. 6

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抄録
1.背景1972年、第17回ユネスコ総会で採択された世界の文化及び自然遺産の保護に関する条約(以下、世界遺産条約)の目的は、過去の文明の実相を解明する手掛かりとなる遺跡や貴重な自然等の保護を通じて、多様な文化を相互に尊重することである。この精神に基づく活動の一環として、地域における文化的な多様性が反映された世界遺産の登録があげられる。しかし、世界遺産の登録制度には根源的な矛盾がある。世界遺産条約は、世界遺産としてふさわしい物件を「世界遺産リスト」に記載し、世界中の国や民族が誇る「現代を生きる世界のすべての人々が共有し、未来の世代に引き継ぐべき人類共通の宝物」として保護することをうたっている。しかし、「世界遺産としてふさわしい」という価値は、あらゆる文化に共通しているとはいえない。評価による価値はある文化的な価値である。また、多様な文化の水平化を目的としつつ、その評価による差別化が前提であるといった根源的な矛盾を含んでいる。したがって、文化の多様性が反映された世界遺産リストとは、存在不可能であることが指摘できる。このことから、世界遺産の「価値」が問題となる。2.研究の目的・意義本研究の目的は、風景論の視点を取り入れ、世界遺産を「再発見」型と「追認」型の2つに分けて議論を展開し、漠然としていた世界遺産の「価値」を明らかにすることである。風景の価値が創造され、それが地域の中心と位置づけられるとき、その風景は物質的・表象的に変化する。ある文化における風景がある評価基準に組み込まれた場合、その風景は何度も変化する可能性が高い。しかし、世界遺産に登録されることで風景がどのように変化するかという点から、世界遺産の持つ価値とその位置づけを明確に論じている研究はほとんどみられない。また、世界遺産の価値を明らかにすることは、何を遺産として継承していくかを明確にすることにつながる。このことから、本研究の意義は高いといえる。3.風景論から見た世界遺産の「価値」風景は、文化、時間及び各個人によって異なるものであるため、常に変化し続ける。風景の観点から見ると、ある評価基準である世界遺産という「ラベル」によって、遺産の「絶対的」価値はその風景とともに変化し、その価値の変化をもたらす。その変化が、観光資源としての価値を創出する。したがって、遺産の価値は、次の3つに分けることができる。遺産の持つ「絶対的」価値、希少価値、それを観光資源として捉えた場合の利用価値である。世界遺産という「絶対的」価値は存在しない。仮に「絶対的」価値が存在するとすれば、それは遺産に内在している価値である。この点に着目すると、世界遺産に登録されることで創造される価値は、希少価値であると考えられる。また、遺産が世界遺産として登録された場合、それを観光資源として利用する価値が生じる。それは、遺産の「絶対的」価値を前提としているが、「ラベル」による差別化がもたらす希少価値によって高められる。それによって高められた利用価値は、遺産の「絶対的」価値を維持管理する費用となる可能性がある。以上の関係を踏まえ、世界遺産の登録を「再発見」と「追認」の2つ型に分けた。ある文化における評価では日常化していて、偶然的な継続が評価された場合に「再発見」、ある文化において継続的に価値が維持されていたものを登録した場合「追認」と区別することで議論が明確化した。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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