【背景と目的】ウシ摘出角膜の混濁度および透過性試験法 (BCOP法) は,無刺激性物質 (UN GHS区分外) および腐食性・強刺激性物質(UN GHS区分1) の評価が可能な眼刺激性試験代替法(OECD TG437)である.同試験への病理組織学的評価の組込みにより,弱刺激性物質(UN GHS区分2Aおよび2B)の予測を可能とするガイドライン改訂を目指し,眼刺激性の明らかな38物質の病理組織学的評価を実施した.並行してInstitute for In Vitro Sciences, Inc.(IIVS)にピアレビューを依頼した.
【方法】眼刺激性評価 (in vitro irritation score:IVIS値) は常法に従い被験物質暴露による角膜の混濁度とその透過性の変化に基づき算出した.測定後の角膜を10%中性緩衝ホルマリン液で固定後,HE染色標本を作製し,鏡検を実施した.また,病理標本はバーチャルスライドファイル化したものをIIVSにて評価した.病理所見は角膜上皮の部位による損傷深度により0~3の4段階,実質の損傷深度,内皮の損傷割合に応じて各々0~4の5段階でスコア付した.
【結果および考察】その結果,IVIS値に角膜上皮の病理組織学的変化を加えて評価した場合,弱刺激性物質(UN GHS区分2B)と無刺激性,中等度以上の眼刺激性物質(UN GHS区分1A)以上を区分できた.
また,2施設での病理組織学的評価の結果,細部の所見や程度に差異が確認され,アーティファクトと考えられる所見,所見として採用する損傷程度について議論の余地があることが判明した.しかし多くの物質において上皮,実質および内皮の各部位での損傷評価グレードに一致がみられた.
以上のことから,BCOP試験での主に角膜上皮の変化に着目した病理組織学的評価は,角膜上皮の損傷程度の観察において回復性が予測できることから,弱刺激性物質の識別する評価法となり得ると考えられ,BCOP試験のガイドラインに組込むことは有用であると考えられた.