【背景】生体内のアミノ酸はL体及びD体の光学異性体が存在する。近年、生体内のD-/L-アミノ酸比と腎障害の関連性は注目されてきているが、現在までに報告されているのは、急性腎障害を反映する虚血再灌流モデルマウスにおける血液及び尿中セリン比の変動のみで、慢性腎障害モデル及び網羅的なD-/L-アミノ酸比の変動については検討されていない。そこで本研究では慢性腎障害を反映する5/6腎臓摘出ラットを用いて、尿中D-/L-アミノ酸比を網羅的に測定し、これらの腎毒性マーカーとしての有用性について検討した。
【方法】雄のSDラットを用いて5/6腎臓摘出モデルを作成し、施術1週間後から4週間後まで、1週間に1回尿中及び血液中の腎障害マーカー(尿中クレアチニン、血中BUN等)、並びに尿中D-/L-アミノ酸比をLC/MS/MSを用いて網羅的に測定した。施術4週間後に全群のラットから腎臓を摘出し、病理組織学的検査を行った。
【結果】5/6腎障害モデル群では施術1週間後から、セリンを含む複数のD-/L-アミノ酸比が高値を示し、施術4週間後までに10種類のD-/L-アミノ酸比が高値を示した。特にD-/L-アスパラギン比は施術1週間後から4週間後まで継続して高値を示し、施術後4週間の血中BUNと相関傾向が認められた(r2=0.58)。また、同群では、腎障害に関連した所見として尿細管拡張やメサンギウム細胞過形成などが認められた。これらの変化は無処置及びsham群では認められなかった。
【結論】網羅的なD-/L-アミノ酸比の測定により、これらの変動が腎障害及び既存の腎障害マーカーと相関していることが明らかとなり、D-/L-アミノ酸比の変動が新たな腎障害マーカーになり得る可能性が示唆された。